ストロービングscene from "Saving Private Ryan"

セルアニメでは、リアルなスピード感の表現がひとつの鬼門だった。速い動きなら、1コマに露光された時、像が流れていないと不自然だと考えたわけだ。ところが、1コマずつ撮影するアニメでは、そうはいかず、例えタイミングを1コマ打ちにしたところで、像はくっきりコマに残る。これをストロービングという。そこで、ブラシかけたり、流線タッチなんかの漫画的手法を取り入れたりしてそれらし〜く処理するしかなかった。でも、今のデジタルで言う、モーションブラーがやりたかったのね、当時。

それらの処理を加えることができないモデル・アニメーションの世界では、このストロービング問題はセルアニメ以上にブレイクスルーすべき問題だった。ウィリス・オブライエンによるキングコング(33)は、今や映画史上伝説的な作品となったため、このカクカクしたストロービングの動きがいいのだ!という見方もあった。しかし、遊星からの物体X(82)で、モデル・アニメーターのランディ・クックはThingのアニメーションをジョン・カーペンターにプレゼンテーションしたところ、ボツにされてしまった。ストロービングはチャチに見えるし、このフィルムにFitしないという理由だったようだ。

モデルアニメーターとして名高いデビッド・アレンは、空の大怪獣Qで、多重露光によってモーション・ブラーを実現し、Qのスピード感を表現した。これは、撮影が数倍手間取るものの、モデルアニメとしては画期的だった。革命が起こったのは、もう一人のモデルアニメの第一人者、フィル・ティペットがドラゴン・スレイヤー(81)でゴー・モーションを発明した時だ。これは1コマを露光する間、メカニカルでモデルを動かしてブレさせるものだ。そのネーミングは、従来のストップ・モーション手法に対してつけられ、E.T.(84)のフライング・バイクにも使われて有名になったが、コストがかかりすぎるのもあってか、その後どーなったことやら。ロボコップでちょびっと使ってたっけ?

リアリズムを妨げると思われてきたストロービングだが、かつて、ワシは速い動きをビデオカメラで撮影する際、天気がよかったこともあって、シャッタースピードを通常よりも速くしてみた。それぞれのフレームには、ブレのない(またはアニメ的な)画像が記録されるはずだ。これを再生させると、まさに思惑通りハイコントラストなパチパチしたムービーをGETできた。これはこれで、視覚的にスピード感あるじゃん!程度に思った。

プライベート・ライアンを観た時、このことを思い出した。この映画の90%はハンディ・キャメラで撮影されている。ハンディを使うということは臨場感・ドキュメンタリー・タッチを得る目的があるのだが、通常はブレを生かして像をハッキリさせないところがポイントだ。この場合ステディ・カムは向かない。リドリー・スコットのGIジェーン(97)ではキャメラに人間の目線の動きを想定し、モーション・ブラーバリバリのショットを緻密にモンタージュして効果を上げていた。

しかし監督スピルバーグと撮影監督ヤヌス・カミンスキーはストロービングに加えて彩度を下げる手法を用いて戦闘シーンを構築している。シャッターの開角度を狭くし、シャッタースピードを速くしてモーション・ブラーのない映像を得ているだけでなく、彩度を落としてフィルムの質をもシミュレートしてリアリティを生み出した。このコンビはシンドラーのリストで、すでにドキュメンタリー風モノクローム映像をモノにしている。そして今回、カラーフィルムで見事に生々しさを表現した。アメリカン・シネマトグラファー誌に掲載された、スティーブン・スピルバーグのインタビューを参照してほしい。


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