November 11, 2007

原画マンの仕事

原画の仕事は動画とはガラッと変わる。元になる絵はない。真っ白い紙に絵を描き始める。文字通りゼロからの作画だ。まずは演出や監督との打ち合わせ。外に打ち合わせに行く場合、交通費は自腹。出ることもあるけど自腹。だいたい、アニメーターに必要な経費って自腹が基本。

打ち合わせは数人の原画マンが参加して行うこともあれば、個別に行うこともある。キャラ表(レギュラー/各話)と美術設定(レギュラー/各話)、そして絵コンテを渡される。打ち合わせに使う絵コンテはパート単位。30分枠のTVならAパートとBパート、劇場用なら、A、B、C、D、Eのようにパートが別れる。1人で1パートまるごと担当することはほとんどなく、パート内で誰がどこを担当するか決まってなければ、割り振りはその時決める。担当するのは通常はシーン単位だけど、場合によってはカット単位だったりする。原画マンサイドから、やりがいありそうだとか挑戦したいとか面白そうな箇所を見つけて「このシーンやりたい」って申告することもあるけど、演出サイドから原画マンのスキルを見据えた上で「このシーンやって」って場合が多い。原画マンの得意分野などの評価が演出にわかってる場合ね。割り振られたシーンが不満なこともあれば、期待に応えようってこともある。

打ち合わせは絵コンテを読み合わせながら進める。演出が絵コンテの意図を原画マンに伝えるのが主目的。それについて原画マンは質問や確認を行い、演出は作画表現の注文をする。作画上や設定上の注意事項なんかもメモっとく。原画マンから演出に対して、より適切な提案をすることもある。

打ち合わせが終わったら、レイアウト作業に入る。すでに誰かが描いたレイアウトが支給されることもあるけど、通常は原画マンがレイアウトを起こす。真っ白い紙から始まるってのはこの作業。絵コンテに従って、レイアウト用紙に描く。レイアウトってのはキャラと背景の大ラフ。背景原図とも言って、背景の下絵になるので、しっかりパースをとりながら鉛筆で描き、キャラ部分は色鉛筆で描きこんだりする。キャメラワークがあれば、その指定も書き込む。FollowPanやPANなどは、レイアウト用紙をセロテープでつなげたりして必要な背景サイズで描く。背景とキャラが密接に関わる場合は組み合わせ線を正確に描いとかないといけない。キャラのラフは、おおまかな動きを数枚描いておく。できあがったレイアウトは演出に提出。演出がチェックして作監がチェック。レイアウトのコピーは背景さんへ。

提出したレイアウトが戻ってくるまではやることがないのでヒマになる。チェックが遅れてたりしてレイアウトがなかなか戻ってこないこともある。レイアウト待ちの間にも作画スケジュールはどんどん消化される。戻ってきたレイアウトには演出の注意や注文が書き込まれ、作監修正が添付されてる。いよいよ原画作業に入る。
原画は絵コンテのカット順に取りかかるのが理想だが、BG ONLY(打ち合わせの段階で背景さんに行っちゃってもらえないこともあるけど)やトメクチパクなど、簡単なカットから手を付けていく人も多い。いきなり大変なカットでつまづいてるとチェックする演出を待たせたり、動画マンをヒマにすることになっちゃうでしょ。でもカットはつながってるものなので、できる限りカット順に手を付けたい。アクションカットならなおさら。楽なカットから手を付けると、原画アップの押し迫った頃に大変なカットだけが遺って重圧になる。結局、スケジュールに間に合わず「こぼす」ことになれば「引き上げ」と言って、レイアウトが回収され、助っ人原画に渡る。俺もそういう手伝いをしたことあるけど、残り少ないスケジュールで大変なカットばっかしこなすのは大変。こぼしそうな時は早めに引き上げてもらわないと迷惑がかかる。中にはこぼしたまま、失踪しちゃう原画マンもいるけどね。「引き上げ」は責任放棄の要求で、原画マンにとっては屈辱的なはずだけど、全然気にしない人もいて、最悪、信用なくしてホサれることもある。

原画は動きのラフから描く。この時が一番楽しい。レイアウト時にすでにラフが描かれていれば、そのラフを元に原画を描く。原画の作業自体は、動画マン時代に多くの原画に接してきてるわけなので、大体把握済みだ。当然のスキルとしてキャラを似せること、プロポーションを合わせることは必須。同じキャラ表を見ながら描いても、解釈の違いや個人のクセは出ちゃうもので、そのために作監がいるんだけど、とにかく合わせる。その縛りの中でいかに自分の持ち味を出すかが、腕であり、楽しみでもある。鉛筆で描くんだけど、影やハイライトは色鉛筆で描いて塗ったりする。動画マンにはツメの目盛り、注意してほしい中割があれば参考のラフを入れておく。複雑な塗り分けや色の指定など、仕上げさんへの指示も書き込む。原画ができたらタイムシートをつける。タイムシートには動画マンへの中割の指示や、撮影時のキャメラワークを指定する。タイムシートの記入の仕方は決まってる。業界で統一ルールみたいのがある。

厄介なのはFollowPanだ。原画もキャメラとキャラ、背景の関係を計算をしながら描く。これらがピッタリ合ってないと不自然になるからね。キャメラの動きを表現するのに背景を動かすわけだが、その指定がFollowPan目盛り。背景の動き(撮影法)を別紙にコマ単位の目盛りで指定する。カットによってはかなり複雑になる場合もあって面倒だけど、映像になった時は迫力十分だ。

原画のギャラはカット単位、秒単位、月契約など。どれが得かは作品による。月契約だと収入は安定するけど、超ハードになるかもしれない。出来高ならやった分だけ金になるので、数をこなせるなら月契約よりは稼げる。全体にカット数の少ない作品なら秒単位で請求した方が得だし、カット数の多い作品ならカット単位で請求した方が得。これは仕事に入る前に決まるので、話の内容や演出の作風によって運・不運もある。俺の場合、カット単位のギャラで請けた仕事で、1パートまるごと1人で原画やったのに、同じく1パートまるごと1人でやった動画マンよりギャラが安くなってたことがあった。直訴して、シリーズの途中で秒単位のギャラに変更してもらったことがあった。まあ、特例ですけど。
Posted by A.e.Suck at November 11, 2007 03:19 PM