May 16, 2015

36周年

エリック師匠36周年に入った記念に、師匠の言葉をいくつか思い出してみます。出会いはアニメーターになった最初の日。「これからMさんに会わせるから挨拶しなさい」「え、Mさんってタイガーマスクの作監のMさんですか?」「そうだよ」この建物にあのMさんがいるとは知りませんでした。東映から絶大な信頼をされてて、他社の仕事をするときは別名を使うほど東映に義理を通す大ベテランです。

この絵のようなすんごく厳しく怖いイメージでしたが、それでもずいぶん丸くなってたそうです。動画をチェックしてもらうときは、怖いしドキドキですが、修正を入れてくれたり、中割りのラフを描いてくれることもありました。師匠はスタジオエイトの全ての新人を指導していました。自分の作業時間を割き、無償で。テキサス州ダラスのレスラー兼プロモーターのフリッツ・フォン・エリックに似ていたので、スタジオエイトはアニメ業界版エリック王国と勝手に呼んでました。

スタジオエイトの解散時、師匠以下全員のギャラが未払いでした。師匠は金策する社長に対して「オレの分はいいから動画の連中のギャラをまず払ってやってくれ」と言ったそうです。おかげでオレらは未払いギャラがもらえましたが、師匠が泣いたギャラは数百万とのことでした。

プロレス好きかよ?

初めて師匠部屋に通され、初対面した時「絵を見せてごらん」と言われ、ラクガキ帳を差し出しました。絵の勉強もしたことがなく、演劇やってた高卒の絵を、大ベテランの巨匠が見る。心臓が破裂する思いです。黙々と見ていた師匠がニヤリとして発したのがこの言葉でした。事前に「裸のデッサンを描くといい」と聞いてたので、レスラーの絵が何点か描いてあったのです。険しい表情からニヤリとしての一言だったので、緊張が少し緩みました。全ページ見てくれました。最後には「このラクガキ帳は捨てるな。とっておけ」と言われ、ホッとしました。今もとってありますよ、デビュー前のラクガキ帳。

消しゴム使ったろ?

少しでも失敗したら消して直さずに描き直せと言われてたのにもかかわらず、ほんの少しならわからないだろうと…しかし、師匠のチェックを受けてみたらこの一言です。「描き直せ!」動画用紙を裏返すと、消しゴムの後が残るのです。そーゆーときは裏からも消しゴムをかけるという邪道のテクニックを先輩から教わりました。でもなんで消しゴム使うなって言われたかってえと、絵の上達にならないからだと思います。消しゴムかけてる時間も惜しんで描けということだったんだなあと。消し方はうまくなるかもしれんが、絵がうまくなるわけではない。経験の足しにはならないから消しゴムの時間はムダで、それなら一から描き直した方が自分に有益だと。そのために紙は何枚使ってもいいと。とにかくいっぱい描け!ということだったんでしょう。もうひとつ、作画のスピードアップの訓練。消して直すということはしくじっているからで、スピードの妨げになる。宮崎さんは絵を描くスピードは「鉛筆を走らせるスピード」だって言ってましたが「余分な線を描かないこと」も重要です。少ない線で仕上げれば短時間で描けるわけで、それを意識してたくさん描くのがうまくなる道というわけ。

起こしてかまわないから

新人の頃は、動画ができたら師匠のチェックを受けます。師匠が作監でない作品でもです。師匠がOKしてくれるまで描き直します。つまりそれまで枚数としてカウントされないのでギャラにはなりません。1日おきにしか帰宅しない師匠は、午前中に仕事部屋に籠って寝てることが多いのです。起きたのを見計らって師匠の部屋に入ると「オレが寝てたら起こしてでも見せろ、ここは寝る場所じゃなくて仕事場なんだから」とのこと。でもね、「何時に起こして」って頼まれてるならともかく、いきなり叩き起こせるわけないじゃないですか。

寝るのは3分だけ

会社で徹夜するとき、睡魔に負けて仮眠をとると、つい何時間も眠ることになりかねない。だから寝るなら3分だけにしとけってことです。深い睡りに落ちる前に起きろと。この頃の師匠はたっぷり眠ってましたがw、「タイガーマスク」の頃は3分仮眠を実線してたそうです。

これでいいんです!

師匠が作監でない作品でもチェックを受けると書きましたが、師匠にOKをもらって提出した動画がリテークで戻って来たことがありました。それを師匠に伝えたら、その動画を見せろと。師匠はパラパラと動画を見た後、修正用紙に何か書いてタイムシートにセロテープで貼付けると「動画は直さなくていいから、このまま出しておけ」と言われました。その修正用紙に書いてあったのが「これでいいんです!M」でした。かっけ〜と思った瞬間です。

バスはこうじゃない

バス横位置のバスを描いたんです。演出はOKしてその原画は作監チェックへ。その作品の作監だった師匠に呼ばれました。「これは何?」「バスです」「バスはこうじゃないだろ?」「…」「バスの後ろがどうなってるか見てこい!」と言われて外に見に行きました。自分の描いた絵の間違いに気付きました。「適当な記憶で描くんじゃないよ!確認して描け」でした。さらに「こーゆーときはウソでも奥のタイヤも描いとけ」とも言われました。このままじゃペラペラに見えるからです。

キネ旬見なきゃだめだよ

新人時代に買ってた映画雑誌は「ロードショー」でしたが、映画好きな師匠の勧めで「キネマ旬報」を買うことにしました。でもキネ旬は月2回発売されるので、金かかるんだよなあ。新人の頃買ってた雑誌は他に「スターログ」「月刊プロレス」「別冊ゴング」「ぴあ」でした。因に師匠が好きな映画は「遊星よりの物体X」と「エイリアン」です。

深谷くんいるか?

そして「ぴあ買ったかい?」「キネ旬買ったかい?」と聞かれます。買ってたら見せてくれということです。発売日に聞かれるので、会社行く途中に本屋で買います。レーザーディスクを買ったときは、師匠からベータのテープを渡されるのでダビングします。師匠は机の横の押入れにダビング用の生テープをストックしています。

音消して見ろよ

TVでアニメを見るときのことです。音を出してると絵や動きのクオリティがわかりにくいからです。だからラッシュのように無音で見ると、いい部分悪い部分がよくわかるのです。かなり的を得ていると思います。今もネットでアニメを見るときは無音です。無音でつまらないのは、途中で見るのをやめちゃいます。

紅茶に砂糖入れるのかよ

台所で入れた紅茶に砂糖を入れようとしてたんです。「紅茶はお茶だろ?緑茶や麦茶に砂糖入れるか?」とのことでした。まあ、確かにそうですね。それ以来、紅茶に砂糖は入れてません。

無名時代のマックイーン

台所で仲間と「理由なき反抗」の話をしてたら、師匠が「無名時代のマックイーンがチンピラ役で出てたんだよ」って教えてくれた。それってポール・ニューマンの「傷だらけの栄光」と勘違いしてると思っても、言い返せませんでした。

オレだよ!

師匠の部屋のTVで「テレビ探偵団」見てたときのこと。「豹(ジャガー)の眼」ってゆー古いヒーロードラマのオープニング映像が流れたのです。脚本のクレジットが師匠と同じ名前だったので「あ、同姓同名じゃないすか!」って言ったら「オレだよ!」と返されました。いきなりのカミングアウトで、周りの全員がびっくり!アニメーターになる前は実写ドラマの脚本書いてたそうなんです。アニメーターとしては「宇宙エース」の動画が最初とのこと。

馬場はでかい

「タイガーマスク」の頃、ジャイアント馬場が東映のスタッフルームに来たことあるんだよ。K村圭一郎もでかかったが、それよりはるかにでかかったな。馬場は頭を下げないと入り口くぐれなかったよ。とのことでした。

好きなことで食ってくんだからラクなはずはない

他に思い出すのは↑のほかに「趣味と実益は兼ねられない」「アニメ作ってると思うなよ、フィルムを作ってるんだ」「アニメーターは役者だから」「アニメーターはキャメラマンだから」「映画はスクリーンで拡大されるから、特にきれいな線で描け」なんて言われたことです。もしかしたらもっと大事なこと言われてただろうけど、今は思い出せません。そして、原画になりたての頃に言われた一言が、

深谷君が努力したからだよ

師匠がオレの原画を作監チェックしてて呼び出さました。直されるのかと思ったら「よくがんばったなあ」と言われ、「Mさんのおかげです」と答えたときの言葉です。突然そんなこと言われてびっくりしたけど、エリック王国卒業の一言でしょうか。これからは原画マン同士、先輩後輩だよ、って意味だったのかも。

エリック師匠最後に、劇場「キン肉マン」7作めから、オレ原画によるスタッフ登場シーンを挙げておきます。真ん中でキネ旬を見てるのが師匠です。

Posted by A.e.Suck at May 16, 2015 12:24 PM





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